「夏 の 終 り」
2013年9月1日
先日のテレビ番組予告で「瀬戸内寂聴」出演を知っていた私達夫婦は、
午前7時半から流れる早朝の対談番組を見逃さいない様、
二人で早めにTVの前のソファに深く座り、
煎れたての熱いコーヒーの香ばしさに目を醒ましながら待ち構えた。
寂聴さんは今年で91歳を迎えられたが、
久しぶりのTVでお逢いした寂聴さんは、
本当に歳を重ねたことを全く感じさせない、
相変わらずハツラツと若さ活気溢れる人気作家の住職さんでした。
いつもの歯切れ良いリズミカルで速いテンポのトーク説法に引きずり込まれる、
ファンが大勢いるのも納得(いつもながら歯に衣着せぬ物言いはスカッとする)
私はしばしば
「寂聴さんは、どうしてこんなにも元気でいられるのだろうか」
と自問自答するが、
何事にも動じないで常に志ある目標を掲げ、
超多忙な毎日で講演や執筆と大量の仕事をこなし、
常に前向きな言動が自分を掻き立てるのだろう。
クヨクヨしないで実にポジティブな生き様を感じる。
毎日、大好きなお肉とお酒を愛する生き方は、
とても住職らしいとは思えないが、この意外性も人気の理由だろう。
司会者と対談の中で、
2013年8月31日に公開される映画『夏の終り』の予告があった。
封切りは「夏の終り」に相応しい8月31日を狙ったのであろう。
私は書籍を拝読したことがなかったので、
映画上映予告に小さな胸の高まりを憶えた。
(映画鑑賞)
9月1日(日曜日)は朝から雨が、しとしと・・・。
心地よい秋雨の中を、
私達夫婦を乗せて自家用車は映画館「広島サロンシネマ」に12時前には到着した。
近くの100円パーキングを選んで停めた。
毎月1日は映画の日で、大人1000円デイであり大勢のお客様で賑わっていた。
私は濡れた傘を玄関先に準備されていたビニール袋に包み、
上映開始の12:30まで少し狭い通路の人ごみの中で待った。
(特に女性群の雑踏の中にいる気配であった)
原作は瀬戸内寂聴(当時は出家前の晴美)さんが、
自身の体験を基に描き100万部を超えるベストセラーとなった同名小説を、
「満島ひかり」主演で映画化した大人のラブストーリーである。
「小林薫」演じる年上の男と、
「綾野剛」演じる年下の男という2人の間で揺れ動く、
ヒロインの心情を丁寧に描き出す。
妻子ある不遇な作家との八年に及ぶ愛の生活に疲れ果て、
年下の男との激しい愛欲にも満たされぬ女、知子…
彼女は泥沼のような生活にあえぎ、女の業に苦悩しながら、
一途に独自の愛を生きてゆく。
新鮮な感覚と大胆な手法を駆使した、
女流文学賞受賞作の「夏の終り」。
瀬戸内晴美自身の不倫体験を重ねた、著者の原点となった私小説である。
現実、この関係が道徳的には許されない状況という考え方もあると思うが、
作品として美しく伝わってくるのは作者の巧みな叙述によるものだろう。
彼女は、正直に生きすぎただけなのだろうと思う。
社会の道徳とか法律とかに拘束されずに、思いのまま生きただけなのだ。
全てのものを枠に捉えて考えようとする世界に生きてしまった主人公が、
とても可哀想に思えた。
この映画の感想は、人それぞれ差異論があるだろうが、
私は奔放すぎる自分を悩み苦しみながら生きる知子(主人公)が愛しく、
そして羨ましくも思えた。
(秋雨のcafeshop )
静かに幕が降り、館内にゆっくりゆっくりと灯りが戻った。
雨に濡れている映画館の長い階段を確かめる様に足元に気を付けながら下りた。
外はまだしとしと雨が落ちており、空は薄曇りで少し暗かったが、
私には少し眩しく思えた。
雨まじりの週末に相応しい映画に漂いながら、
私達夫婦は1本の小さなビニール傘で肩を寄せ合い、
今日の映画に似合いそうな古くからある自家製ケーキ&珈琲、
「サロンド・カフェ房州」店に躊躇なく吸い込まれた。
1階で季節の「無花果ケーキ、季節のフルーツタルト」を選んで、
螺旋の2階階段を「ギシギシ」と音を立てながら昇った。
濡れた傘は1階入り口の傘立てに遠慮しながら脇に添えた。
2階は30席位あるだろうか。
床は年季ある板貼りで、
壁面は塗りで昭和40年代レトロ感を大切に残している、
重厚感ある内装である(私は好きな空間である)
お客様は、女性一人客様が2組・・・
音をたてない様にケーキと雑誌の間を往来している様子。
私達と同年代のご夫婦が一組。
そして叔母様らしき5名の明るい小グループ。
私たちは1階で選んだケーキとは別に、
バター多めのフレンチトースト、パンケーキ、珈琲のオリジナルブレンド、
アメリカンをそれぞれホットで注文した。
私達は、広い4人掛けテーブル席に案内されたが、
私は外の景色が良く見える窓側の狭い2人テーブル席を選んだ。
暫くして1階で注文したケーキ、トースト、一緒にコーヒーも運ばれ、
テーブルは通勤ラッシュの如く賑やかに出窓までお皿で溢れた。
初めからケーキとタルトはテイクアウト用に注文したもので、
全て箱詰めをお願いした。
家内はインテリア雑誌を眺めながら珈琲とケーキを適当に楽しんでいる。
私は興味ある雑誌を見つけたので、真剣に活字を追う(写メも撮った)
時折、夫婦で映画の思いを交えながら、それぞれ静かに珈琲ブレイクを楽しんだ。
(家内は何を思っているのだろうか・・・)
大きく突き出たガラス窓を通して、背の高い濃い緑の街路樹が遠くまで続き、
市内電車の線路が大きく右に曲がり、行き交う車がワイパーで雨をかき分け、
薄暗く浮かぶ市街地の景色は、
雨が運んでくれた風情と安らぎのセレナーゼを醸し出す絶景の絵画である。
実は、このお店は私が家内と結婚する前にデートで利用したことのある、
ケーキ喫茶店であり、若き青春時代の想い出が残っている過去を遺したお店である。
(これからもいつまでも地元に愛され必要とされ続け、
繁盛されることを心より祈念)
本日の映画「夏の終り」の恋愛感情をそのまま引き下げ、
私の若き時代へタイムスリップさせてくれた、
昭和の香りが少し漂う「カフェ房州」に感謝します。
秋の足音を告げる様に、
静かに落ちる秋雨に濡れながら「夏の終り」を身体で憶え、
晩夏のなかで観た壊れゆく恋の映画『夏の終り』に、
若き日の作家、瀬戸内寂聴(晴美)の恋愛人生観に浸り、
若い一人の奔放に恋愛に生きる女性を感じることのできた120分間。
そして最愛の家内と久しぶりに、
愛の物語という深い海の中で、夏の終りを泳がせていただいた。
暑い夏から 秋は雨を伴侶に小走りで・・・。
カテゴリ:「感動感謝」